文具・文房具・事務用品・事務機器の総合サイト オフマガNEXT

お問い合わせ

オフィスマガジンonline

ホーム > オフマガ ニュース一覧 > デジタル時代の学生に対し読み書きの実態を調査  ~「書く」ことと「読む」ことの累積効果が明らかに~

デジタル時代の学生に対し読み書きの実態を調査  ~「書く」ことと「読む」ことの累積効果が明らかに~
2025年09月01日

このたび、一般社団法人応用脳科学コンソーシアム(所在地:東京都千代田区、代表理事:柳田 敏雄/岩本 敏男)は、国立大学法人東京大学 大学院総合文化研究科 酒井研究室(東京都目黒区、酒井 邦嘉 教授、専門:言語脳科学)、株式会社NTTデータ経営研究所(東京都千代田区、代表取締役社長:山口 重樹)、日本紙パルプ商事株式会社(東京都中央区、代表取締役社長 社長執行役員:渡辺 昭彦)、公益財団法人 日本漢字能力検定協会(京都府京都市、代表理事 理事長:山崎 信夫)、株式会社日本能率協会マネジメントセンター(東京都中央区、代表取締役社長:張 士洛)、株式会社パイロットコーポレーション(東京都中央区、代表取締役社長:藤崎 文男)と共同で、筆記と読書の関係性を科学的に検証する調査を行いましたので、その結果を発表します。

※藤崎 文男の「崎」は立つ崎(たつさき)が正式表記。

 

 

1. 発表のポイント:

◆大学等の講義内容の記録について、記録しないと回答した人は全体の10%に上り、日常的な予定の管理について、紙または電子機器に記入することがないと答えた人は全体の24%に上りました。一部の学生で書くことが習慣化していないという実態がうかがえます。

◆日常で本や新聞・雑誌を読む時間に関して、いずれも普段読まないと回答した人は全体の20%に上りました。日常的に紙の本を読むと回答した人でも、その読書時間は1日あたり40分程度にとどまっており、十分とは言いがたい状況です。

◆日常的に本や新聞・雑誌を読む人の方がより多様な場面で書く傾向にあり、多様な場面で書く人の方が本や新聞・雑誌をより長時間読む傾向がありました。また、講義内容を記録する人や、本や新聞・雑誌を普段読む人のほうが国語の読解問題の成績が高くなりました。つまり、書くことと読むことの累積効果によって、読解力が高まる可能性があります。

 

 

2. 発表概要:

一般社団法人応用脳科学コンソーシアム(以下、CAN)の共同プロジェクト「手書き価値研究会」は、全国の18-29歳の学生(大学生が大半ですが、大学院生と短大生を含みます)、計1,062名を対象として、調査「書字と読書における使用メディアについてのアンケート」を行いました。調査期間は、2025年の3月から8月までです。今回は学生を対象としましたが、高校までの学習経験がある程度まで反映されていると考えられます。

「書く」ことについては、大学等の講義記録、および日常における予定管理に分けて、用いる媒体(紙、電子機器)とその使用頻度等を調べました。「読む」ことについては、日常において本や新聞、雑誌等を読むときに用いる媒体や時間を調べました。また、講義記録と予定管理だけでなく、日常的なメモや、ブログ・SNS・日記等を書くことを含めて、読むこととの関連を解析したところ、両者が国語の読解問題(以下、国語問題)の成績に影響することが明らかになりました。

今回の調査は、CANが手書きの価値を追究していく前提として、対象となる学生の実態を把握するという位置付けです。調査の実施にあたっては、特に書くことと読むことの関係性について、電子機器の使用がもたらす問題点を含めた現状の分析が重要であると考えました。

なお、東京大学は「手書きの価値を示す脳機能」という題目でCANからの学術指導依頼を受諾しており、本調査の作成と実施、および評価の議論を共同で行い、このたび研究成果として発表するものです。

 

 

3. 発表内容:

(1)調査の背景・先行研究における問題点

日常生活において、紙の本や雑誌に加え、スマートフォン・タブレット・パソコンといった電子機器が使われています。しかし、電子機器が日々の筆記や読書などに及ぼす影響については、これまで十分な調査がなされてきませんでした。紙の本と電子書籍の比較について、全国で読書アンケートが行われていますが、読書の対象となる「本」の定義があいまいであるため、実態の解明には不十分でした(酒井 邦嘉著『デジタル脳クライシス』朝日新書、2024年、pp.39-41参照)。

また、従来の研究では、異なるメディア使用(手書きとキーボード入力など)による記憶と理解の効果が行動実験で調べられていましたが、日常的に書くことと読むことの間の関連性については明らかにされていませんでした。言語脳科学の研究によれば、脳にある言語野(注1)において入力の情報が構造化されて出力されます。したがって、読むこと(入力)と書くこと(出力)が関連することが予想され、両者の能力にも相関があると考えられます。

 

(2)調査内容

対象者は、アンケートモニター募集サイト「NTTコム リサーチ」に登録している学生であり、回答者には報酬として、サイト内ポイントを支給しました。居住地は全国にわたりますが、東京都・埼玉県・千葉県・神奈川県だけで84%を占めていました。所属は大学生93%、大学院生6%、短大生1%であり、男女の内訳は女性71%、男性28%、無回答1%です。

 

本調査の分析結果を、添付資料で詳細に示しました。それぞれの項目で最初に掲げてある要点は、以下の通りです。

 

1. 大学等の講義内容の記録に関して、回答者1,062名のうち講義内容を記録することがないと回答した人は全体の10%(107名)に上りました。

2. 日常的な予定の管理に関して、紙または電子機器に記入して管理をすることがないと回答した人は全体の24%(255名)に上りました。

3. 日常で本や新聞・雑誌を読む時間に関して、回答者1,062名のうち本や新聞・雑誌いずれも普段読まないと回答した人は全体の20%(221名)に上りました。

4. 日常で本や新聞・雑誌(SNSは除く)を読むことと、メモや日記等の複数の場面で書くことの関連について、本や新聞・雑誌を読む人の方が多様な場面で書く傾向にあり、多様な場面で書く人の方が本や新聞・雑誌をより長時間読む傾向にありました。

5. 以上の解析結果で明らかになった大学等の講義内容を記録する人としない人について、国語問題の成績を比較したところ、前者の成績のほうが高いことがわかりました。また、本や新聞・雑誌を普段読む人は、いずれも全く読まない人より成績が高いことがわかりました。

 

(3)社会的意義

デジタル機器の急速な普及を背景として、日常的な読書習慣やメモの取り方に大きな問題が生じている実態が明らかになりました。特に、大学等の講義内容の記録を一切しない人が1割(要点1)、予定の管理を一切しない人が2割以上(要点2)であり、本のジャンルとして多様な項目を含めたにもかかわらず、本や新聞・雑誌いずれも普段読まない人が2割(要点3)も存在するというのは、大学生および大学院生の日常としては深刻な事態だと言えます。また、紙の本を読むと回答した人たちでも、読書時間が1日あたり40分程度にとどまっていました。紙の本を読まないと回答した人を含めて平均すれば30分程度になります。さらに、紙か電子かを問わず専門書・教科書を普段読むと回答した人の割合は38%と限定的だったことから、高等教育に必要な学習時間が十分に確保されているとは言いがたい状況です。

その一方で、コミュニティサイトの記事(ブログや匿名掲示板、SNS等)を読み物として読むと回答した人の割合は26%であり、その時間は1日あたり60分程度でした。個人発信の活字情報を得るのに、一定の時間をかけているという実態がうかがえます。

本や新聞・雑誌を読む人の方がより多様な場面で日常的に書く傾向にあり、多様な場面で日常的に書く人の方が本や新聞・雑誌をより長時間読む傾向にあること(要点4)から、読むことと書くことの高い関連性が見て取れます。また、大学等の講義内容を記録する人や、本や新聞・雑誌を普段読む人のほうが国語問題の成績が高かったこと(要点5)から、日常的なメモの取り方や読書習慣は、文章の読解力や論理的な思考力に関係するということが明確に示されました。今回の知見は、書くことと読むことの累積効果を示しており、教育全般における言語力の強化や、生涯学習の重要性を強く訴えるものです。

 

(4)今後の予定

東京大学の酒井研究室では、MRI装置などを用いて人間の脳における言語メカニズムの解明を追究しています。さらに、書字や読解に関わる脳内メカニズムを明らかにすることにより、手書きの価値についての実証実験を進めているところです。CANの共同プロジェクト「手書き価値研究会」は、科学的な知見の発表と、それに基づく実証的な製品やサービス等の提供を通して、人々が能力を最大限に発揮できる社会の実現に貢献していきたいと考えています。

 

 

4. 問い合わせ先:

<調査に関すること>

東京大学 大学院総合文化研究科

教授 酒井 邦嘉(サカイ クニヨシ)

〒153-8902 東京都目黒区駒場3-8-1

 

一般社団法人応用脳科学コンソーシアム 事務局

長岡 陽(ナガオカ アキラ)、萩原 一平(ハギワラ イッペイ)

〒102-0093 東京都千代田区平河町2-7-9 JA共済ビル10階

E-mail: can@can-neuro.org

 

<報道に関すること>

一般社団法人応用脳科学コンソーシアム 事務局

〒102-0093 東京都千代田区平河町2-7-9 JA共済ビル10階

E-mail: can@can-neuro.org

 

 

5. 用語解説:

(注1)言語野

脳の言語野に入力される言葉の情報は、想像の過程で補われて、さらに関連した記憶が参照されます。思い出したことがらの関係性が構造化されて理解や推論が可能となり、適切な解釈ができれば想像がより確かなものになります。一方、人間の脳内で生成された情報は、理解に支えられた適切な表現によって、創造の過程を経て出力されます。読むことは入力であり、書くことは出力ですが、ともに「構造化」という言語能力に支えられているのです。

 

図1. 言語野における読むこと(入力)と書くこと(出力)の関連性(酒井 邦嘉著 『デジタル脳クライシス』 朝日新書、2024年、pp.87-90参照)

図1. 言語野における読むこと(入力)と書くこと(出力)の関連性(酒井 邦嘉著 『デジタル脳クライシス』 朝日新書、2024年、pp.87-90参照)

 

6. 添付資料:

(1)大学等の講義内容の記録に関して、回答者1,062名のうち講義内容を記録することがないと回答した人は全体の10%(107名)に上った。

 

講義内容を記録すると答えた人(955名)に関して、その記録スタイル(内容を可能な限り全て記録しようと努める/内容を要約して記録する/特に印象に残った部分のみ記録する)をさらに調べた結果(図2)、講義内容を記録する学生でも3割超が必要最低限の記録スタイルであることがわかった。

 

図2. 講義内容を記録するスタイル

図2. 講義内容を記録するスタイル

 

講義の記録に際する紙(大学ノートやレポート用紙)・電子機器(パソコンやタブレット)の使用率は図3のようになり、全体の約半数が講義の記録において紙を多く使用していることがわかった。

 

図3. 講義記録をとる際の紙・電子機器の使用割合。紙100%「紙のみ」、紙90~60%「紙のほうが多い」、紙50%「紙・電子同程度」、紙40~10%「電子の方が多い」、紙0%「電子のみ」とした。

図3. 講義記録をとる際の紙・電子機器の使用割合。紙100%「紙のみ」、紙90~60%「紙のほうが多い」、紙50%「紙・電子同程度」、紙40~10%「電子の方が多い」、紙0%「電子のみ」とした。

 

これは、高校までの紙を主体とする授業の記録スタイルが、大学でもある程度習慣づいているためと考えられる。

また、紙の各使用率ごとに講義の記録スタイルの違いを調べたところ、紙の使用率が90%以下の人に比べ、100%の人の方がより内容を可能な限り全て記録しようと努める傾向にあることがわかった(p < 0.05)。

 

図4. 紙の使用率100%の人と90%以下の人における、以下の記録スタイルに該当する人数の割合。「全て」:内容を可能な限り全て記録しようと努める;「要約」:内容を要約して記録する;「最低限」:特に印象に残った部分のみ記録する。*は統計的な有意性p < 0.05を表す。

図4. 紙の使用率100%の人と90%以下の人における、以下の記録スタイルに該当する人数の割合。「全て」:内容を可能な限り全て記録しようと努める;「要約」:内容を要約して記録する;「最低限」:特に印象に残った部分のみ記録する。*は統計的な有意性p < 0.05を表す。

 

いずれも「要約」の割合が一番多いが、紙の使用率100%の人では「全て」の割合が「最低限」より高く、使用率90%以下の人では逆に「全て」の方が低い(図4)。「全て」と「最低限」の人数比は両者で差があり(p < 0.0001)、電子機器を使う人は、最低限の記録にとどめる傾向が強いことがわかった。

 

(2)日常的な予定の管理に関して、紙または電子機器に記入して管理をすることがないと回答した人は全体の24%(255名)に上った。

 

さらに、記入して管理すると答えた人(807名)に関して、その記録スタイル(日常生活の予定まで可能な限り全て記録する/定期的な予定[仕事や授業など]を記録する/不規則な予定のみ記録する)は図5のようになり、予定を記入して管理する人の約3割が必要最低限の記録スタイルであることがわかった。

 

図5. 予定を記入して管理するスタイル

図5. 予定を記入して管理するスタイル

 

予定の管理における紙・電子機器の使用率は図6のようになった。半数近くが電子機器のみを用いており、紙の方をよく使うという人は2割未満にとどまっていることがわかった。

 

図6. 予定の管理における紙および電子機器の使用割合。紙100%「紙のみ」、紙90~60%「紙のほうが多い」、紙50%「紙・電子同程度」、紙40~10%「電子の方が多い」、紙0%「電子のみ」とした。

図6. 予定の管理における紙および電子機器の使用割合。紙100%「紙のみ」、紙90~60%「紙のほうが多い」、紙50%「紙・電子同程度」、紙40~10%「電子の方が多い」、紙0%「電子のみ」とした。

 

また、電子機器による予定管理において最も使われていたのは[指のみによる直接入力]、つまりスマートフォンもしくはタブレットであった。普段持ち歩いている端末を用いて、予定の管理を行っている人が多いと考えられる。

 

加えて、予定を記入して管理を行う人の割合は女性の方が高かった(男性66%;女性80%;p < 0.001)。紙の使用割合については、男女で差がなかった(p > 0.05)。

 

(3)日常で本や新聞・雑誌を読む時間に関して、回答者1,062名のうち本や新聞・雑誌いずれも普段読まないと回答した人は全体の20%(221名)に上った。

 

本に関して、以下の項目を設けた(複数回答可)。文学作品(小説、エッセイ、詩歌など)/専門書・教科書/実用書(ビジネス書、料理本など)/マンガ/パンフレット・カタログ/その他[自由記述]。

全回答者のうち紙で本を読むことがある人の割合は74%、電子機器で本を読むことがある人の割合は59%だった。本を読むことがあると答えた人の読み時間は表1の通り。

 

平均値:43分/日

中央値:30分/日

 

電子機器

平均値:40分/日

中央値:30分/日

 

表1. 媒体ごとの本の読み時間

 

本として多様な項目を含めたにもかかわらず、紙の本を読む時間が1日あたり40分程度にとどまっていた。

 

読んでいる項目の内訳は、紙では文学作品、マンガ、専門書・教科書の順に多く、電子機器ではマンガ、文学作品、専門書・教科書の順に多かった。また、マンガしか読まないと回答した人は紙で本を読む人の15%、電子機器で本を読む人の37%を占めた。

さらに、読んでいる本の項目数について、項目の該当数の平均値を紙・電子機器それぞれで調べたところ、紙では2.1項目で電子の1.6項目より多く(p < 0.0001)、電子機器は読む対象がより限定される傾向が強い。

なお、紙か電子かを問わず専門書・教科書を普段読むと回答した人の割合は、38%と限定的であり、その人たちに限って紙と電子で合算した場合でも、読書時間は83分だった。

 

新聞・雑誌に関して、本アンケートでは新聞・雑誌に関して以下の項目を設けた。

紙:新聞/雑誌/論文誌(プリントアウトしたものを含む)/その他

電子:新聞(電子版)/ニュースサイト/ウェブ雑誌/論文(電子版)/その他

 

全回答者のうち紙で新聞・雑誌を読むことがある人の割合は30%、電子機器で新聞・雑誌を読む人の割合は38%であった。新聞・雑誌を読むことがあると答えた人の読み時間は表2の通り。

 

平均値:31分/日

中央値:20分/日

 

電子機器

平均値:28分/日

中央値:20分/日

 

表2. 媒体ごとの新聞・雑誌の読み時間

 

 

次に、本と新聞・雑誌の少なくとも一方を読んでいる人について、本と新聞・雑誌の読み時間の差を調べた。

 

図7. 紙における、1日あたりの本の読み時間と新聞・雑誌の読み時間の差

図7. 紙における、1日あたりの本の読み時間と新聞・雑誌の読み時間の差

 

図8. 電子機器における、1日あたりの本の読み時間と新聞・雑誌の読み時間の差

図8. 電子機器における、1日あたりの本の読み時間と新聞・雑誌の読み時間の差

 

紙(図7)と電子機器(図8)で分布が異なっており(p < 0.0001)、特に新聞・雑誌をより長く読んでいる人(黒色を付した負の部分)の割合が、電子機器で多くなっていた。

 

また男女差について、本と新聞・雑誌の読み時間の合計は男性の方が長かった(男性91分;女性69分;p < 0.01)。

 

(4)日常で本や新聞・雑誌(SNSは除く)を読むことと、メモや日記等の複数の場面で書くことの関連について、本や新聞・雑誌を読む人の方が多様な場面で書く傾向にあり、多様な場面で書く人の方が本や新聞・雑誌をより長時間読む傾向にあった。

 

日常的に書く習慣の指標として、大学等の講義内容の記録/予定の管理/日常的なメモ(講義や会議を除く)/ブログ・SNS・日記やライフログ・手紙等の執筆の4つの項目について、行うことがあると答えた項目数を評価した。

 

日常で本や新聞・雑誌を読む人といずれも全く読まない人で、書く項目の該当数の平均値を比較したところ(図9)、読む人の方が多かった(p < 0.0001)。日頃から本や新聞・雑誌を読む人の方が、より多様な場面で書いているということが示された。

 

図9. 本や新聞・雑誌を読む人と、いずれも読まない人における、書く項目の該当数。*は統計的な有意性p < 0.05を表す。誤差の範囲を示すエラーバーは、標準誤差で示した(以下同じ)。

図9. 本や新聞・雑誌を読む人と、いずれも読まない人における、書く項目の該当数。*は統計的な有意性p < 0.05を表す。誤差の範囲を示すエラーバーは、標準誤差で示した(以下同じ)。

 

また、書く項目の該当数別に、日常における本や新聞・雑誌を読む時間を比較したところ、書く項目の該当数が多いほど読み時間が長くなった(図10)。日頃より多様な場面で書いている人ほど、本や新聞・雑誌を長時間読んでいるということが示された。

 

図10. 書く項目の該当数別の、本や新聞・雑誌を読む時間

図10. 書く項目の該当数別の、本や新聞・雑誌を読む時間

 

(5)上記の解析結果(1)で明らかになった大学等の講義内容を記録する人としない人について、国語問題の成績を比較したところ、前者の成績のほうが高いことがわかった。また、本や新聞・雑誌を普段読む人は、いずれも全く読まない人より成績が高いことがわかった。

 

アンケートの解析結果(1)に関連して、大学等の講義内容を記録する習慣の有無は、学力や理解力を左右する可能性がある。そこで追加調査としてアンケート回答者の一部に、読解力を評価する国語問題を解いてもらい、記録する人としない人の成績を比較した。

 

【参加者】

上記の解析結果(1)で講義内容を記録すると答えた人(955名)のうち、性別と年代で偏りが出ないよう割付をした無作為の対象者、および記録することがないと回答した人(107名)に対して配信を行い、一定期間内に前者は140名、後者は40名より回答があった。両者で性別および年齢に有意差はなかった(p > 0.05)。

 

【題材】

国語問題として、「文章読解・作成能力検定」(以下「文章検」、(C)公益財団法人 日本漢字能力検定協会)より準2級の問題を使用した。

文章検の2級の程度(レベル)は「高等教育で高度な教養を主体的に身につけるために、〔中略〕必要な総合的な文章読解力」であり、3級では「高校での積極的な理解・表現活動、知的言語活動のために、〔中略〕必要な文章読解力」であり、準2級は両者の中間に位置づけられるため、今回の調査に最適であると判断した。

2017年度第2回および2018年度第1回実施分について、3択ないし4択問題のみで構成される「図表の読み取り」と「文章の読み取り」を用いた。

 

【結果】

図11に示すように、国語問題の正答率は、講義内容を記録する人の方が、記録しない人より顕著に高かった(記録する:57 ± 2 %;記録しない:32 ± 3 %;p < 0.0001)。また、記録しない人の正答率は、解答をランダムに選んだ場合に生じる偶然の水準(チャンスレベル)と変わらず(p > 0.05)、図や文章の内容がほとんど理解できていなかったことが明らかとなった。

 

図11. 大学等の講義内容を記録する人と記録しない人における、国語問題の正答率。破線は偶然の水準(チャンスレベル)を示す。

図11. 大学等の講義内容を記録する人と記録しない人における、国語問題の正答率。破線は偶然の水準(チャンスレベル)を示す。

 

ただし、記録しない人(40人)のうち15%にあたる6名は、主たる分布から離れて60%以上の正答率を示した。ノートを一切取らない人の中には、まれに記憶力や理解力に秀でた人がいる可能性がある。

記録する習慣がないことと読解力が極めて低いこととの間に相関関係が認められたが、両者の因果関係は明らかでない。つまり、講義内容を記録しながら理解しようという姿勢の欠如が読解力の低下を招いたのか、逆に読解力が低いために講義内容を記録することが困難だったのか、という点についてはより詳細な検討を必要とする。

 

同じ参加者について、本や新聞・雑誌を普段読む人(130名)といずれも全く読まない人(50名)に分けて国語問題の正答率を比較したところ(図12)、前者のほうが顕著に高かった(読む:56 ± 2 %;読まない:39 ± 4 %;p < 0.0001)。この結果から、日常的な読書習慣と読解力の相関関係も確かめられた。

 

図12. 本や新聞・雑誌を普段読む人といずれも全く読まない人における、国語問題の正答率。

図12. 本や新聞・雑誌を普段読む人といずれも全く読まない人における、国語問題の正答率。

 

最後に、講義内容を記録するかどうかと、本や新聞・雑誌を読むかどうかという二つの要因について、組み合わせの効果を検討した(図13)。二元の分散分析で国語問題の正答率を比較したところ、前者の主効果が顕著であり(p < 0.0001)、後者の主効果も有意だった(p < 0.05)。さらに二つの要因がどちらもある場合は、どちらもない場合と比較して段階的に正答率が向上し、「書く」ことと「読む」ことの累積効果が明らかとなった。

 

図13. 二つの要因に対する国語問題の正答率。

図13. 二つの要因に対する国語問題の正答率。